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2006年12月 7日 (木)

格差社会の問題

 そして現在、日本人、特に若い世代の人生観に危機が訪れている。

 いわゆる“格差社会”の問題がそれであるが、この問題を議論する際には、そもそも何を持って格差ととらえるか、慎重な分析が必要となる。

 例えば、所得格差を示す指数としてのジニ係数が80年代以降緩やかに上昇していたりことなどから、中流層が崩壊し、高所得層と低所得層の二極化が進んでいるという分析がある。

 教育という観点でこの問題を捉えたものとしては、高学歴者の家庭の子どもが高学歴・高収入になる割合が上昇している事実に着目し、新たな階級社会の到来を示唆するものがある。

 また、生活保護需給世帯の増加や、いわゆるワーキングプアの増加、派遣社員数、フリーター数の上昇という事実から、格差社会の到来を見る見方もある。

 一方で、例えば経済学者の大竹文雄氏のように、所得格差の拡大は根拠に乏しいとする説もある。大竹氏によれば、ジニ係数が増えた主要因は、人口比率が多い団塊世代を中心とした年齢層全体が高齢化したことで、もともとは少なかった同世代内の所得差が、高齢化によってそのまま拡大したことだと主張する。統計的にはアメリカやイギリスで起こったような急激な賃金格差の拡大はないという。

 これまで私が論じてきた即時的行為の比重の高まりという観点から考えると、最も問題なのは、山田昌弘氏が指摘するような“希望の格差”である。「自分は下流だから学校でも仕事でも、努力したところで無駄」という絶望感を持つ日本人の増加は無気力を生む。逆に、勉強や仕事を通じて成長しよう、高い収入を得よう、社会で責任ある地位に着こうという若者が多いのであれば、現時点での統計上の所得格差などは問題にならない。

 ところが、現在の日本が前項に述べたようなリスク化する社会になっているにもかかわらず、そのリスクに正面から向き合おうとせず、およそ成功確率の低い夢を追った結果、正社員になることができず、低い収入しか得られず、結婚もできず、将来の希望が一切持てなくなるという若者が増えるという状況が生じつつある。

 また、さらに問題なのは「この世は格差社会」というイメージ自体が活力を奪うことである。生まれによって高い社会的地位を目指すことをあきらめる状況を生じさせる。

 これは、自らの世界観が塗り替えられないつまり思想の自由が少ない社会である。即時的行為の比重の高まりという実態に対して、社会や職場が対応できていない。職業生活によってその即時的欲求つまり、仕事それ自体により満足を得るという欲求が満たされていないということである。

 「日本が競争社会に入ったのだから、格差はあって当然、勝者に富の配分を増やすことで日本の活力は維持できる」という意見もあるが、まったくの空論である。

 アメリカのように全世界から有能な人物を集め、それらの競争により国家の活力を維持する国と、そのような状況が生まれない日本では目指すべき道が異なる。日本の社会の指導層につく者を、日本人の中の“勝ち組”の子弟という極めて少ない母集団の中から選抜するというようなことでは、より激烈な国家間の競争は到底乗り切れない。

 また、石油等の資源をもたない日本の最大の財産は“人間”であり、中でも世界に比して圧倒的優位なのはその平均レベルの高さである。“格差社会”はその強みをなくしてしまうのではないかという観点から議論されるべき問題であろう。

 一億二千万人の中から、出身階層に関係なく、全国民の中から選ばれた者が政治・経済・文化をリードし、日本を精神的にも文化的にも豊かな国にしていく社会を目指すべきである。

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コメント

佐藤さんの格差社会についての問題意識に全く同感です。
個人の努力で克服することが困難な格差が蔓延すれば、国民の意欲は低下し、日本の国力は衰える一方でしょう。
現在、労働契約法の改正案が検討されているようですが、漏れ聞こえてくる改正案の議論は格差を格差のままに留め置く方向で進行しているようです。

市場経済が日本国内の労働力に賃金格差を生じる方向に働いていることは抗いようがないとしても、
①前市場段階の教育のレベル向上
②後市場段階の社会保障の充実
は国家が重点的に梃入れすべき最重要の課題であると認識します。
しかし、現下の教育再生論議と社会保障の見直しの論議はこれまた的外れの方向に動いているように見えます。

日本にとって過去15年間が物的資本の形成との資源配分についての構造改革の時代だとしたら、
これからの15年間は人的資本形成と資源配分についての構造改革の時代にすべきです。

「格差社会」は我々の世代が人生を賭しても取り組むべき最大の政治テーマだと考えています。

小金井のガムランより

投稿: ガムラン | 2006年12月12日 (火) 02時36分

小金井のガムラン様、コメントありがとうございます。現代の日本の問題について、同じ問題意識を持った方がいることに心強く感じております。
おっしゃるとおり、「人的資本形成と資源配分」は今後取り組むべき極めて大きな課題だと思います。
私もなるべく具体的な方向性、対策まで考え、公表していきたいと思っています。
またいろいろとご指導ください。

投稿: 佐藤孝弘 | 2006年12月12日 (火) 18時56分

佐藤さん
小金井のガムランは
H大学院かつW大雄弁会のTです。
熱い文章に触発されてコメントしてしまいました。

山田昌弘先生の『新平等主義』読みましたか?あれいいっすよ!

投稿: ガムラン | 2006年12月13日 (水) 05時28分

T君、もしやと思っていたけどやっぱりそうだった(笑)。山田先生の新刊はちょうどこれから読むところでした。今度それも含めて勉強会やりましょう!

投稿: 佐藤孝弘 | 2006年12月14日 (木) 00時49分

東京大学社会科学研究所「希望学ホームページ」
http://d.hatena.ne.jp/asdfge/20061208/p3
まだご覧になってなければ是非。

投稿: asdfge | 2006年12月17日 (日) 02時03分

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